外観検査の照明選定|6種類の光の特性と使い分け
照明は、単に「現場を明るく照らすもの」ではありません。ワークの「何を引き出し、何を見せるか」を決める、画像検査における重要な設計要素です。人間の目は見る角度を変えるだけで無意識に光の反射を補正しますが、ラインに固定されたカメラとAIにはそれができません。カメラが捉える「見え方」は、当たっている光の性質だけで大きく変わります。
本記事では、同じ金属プレス板を異なる照明で撮り比べた実験データをもとに、それぞれの光が持つ特性と、現場の搬送環境と調和させるための選定の考え方を整理します。
なぜ同じワークが照明で見え方を変えるのか
実験には、金属缶の蓋に人為的にキズと打痕を加えたサンプルを使用します。
このサンプルを、500万画素のカラーカメラ・レンズ倍率×0.5という条件を固定したまま、照明だけを変えて撮影しています。カメラとレンズが同じでも、照明が変わるだけで画像の見え方がどれほど変化するかを比較します。
拡散光グループ:影を消して質感を見せる「ドーム照明・面照明」
まず紹介するのは、室内の自然光に近い性質を持つ拡散光のグループです。このグループは「光の角度」という概念をいったん脇に置いて捉えると理解しやすくなります。
ドーム照明:均一な光で素材そのものを描き出す
ドーム照明は、ワークを半球状のドームで覆い、内側の壁に反射させた光をあらゆる方向から均一に落とし込む照明です。最大の特徴は、影をほぼ消し去れる点にあります。
実際の画像では、金属板の表面が非常にマットで均一に映っています。光が四方八方から回り込むため、表面の細かなザラつきや金属特有のハレーションが抑えられます。一方で、キズや打痕の「段差」が生む影まで消してしまうため、線のキズは白くのっぺりと見え、打痕の凹凸感もマイルドになります。凹凸を強調したい検査には不向きですが、表面のヘアラインノイズを抑えて素材の色ムラや印刷だけを見たい場合や、色味の判別が必要な検査との相性が良い照明です。
面照明:ベースラインとして扱いやすい汎用型
面照明(フラット照明)は、拡散光の性質を四角いパネル状にした照明です。
ドーム照明ほど極端に影を消すわけではありませんが、そのぶん様々な形状のワークに対して安定した結果を得やすい照明です。画像でも全体が明るくクリアに照らされ、キズも打痕もバランスよく視認できます。
直進光の極致:平面のキズを黒く沈める「同軸照明」
拡散光グループが影を和らげる光だったのに対し、同軸照明は明確なコントラストを作ることで微細な変化を捉える光です。
同軸照明:正反射で、微細なキズを黒く沈ませる
同軸照明は、カメラのレンズの光軸と一致した方向から直進光をワークに当てる構造です。平面の金属板にこの光を当てると、鏡のような正反射がそのままカメラに戻ってきます。
平面部分は光が綺麗に跳ね返るため明るい白になりますが、キズがある部分だけは光が乱反射してカメラに戻らないため、キズの輪郭がくっきりと黒く沈んで映ります。打痕も中央が黒く落ち込み、境界が明確になります。このエッジの立ち方が、キズ検査で同軸照明が使われる理由です。
一方で、プレス材の圧延パターン(横筋)も強調されるため、表面状態の観察には有効ですが、情報量が多くなりすぎる場合もあります。また照明のサイズが大きくなりやすいことと、ハーフミラーで光量がカットされる特性がある点も踏まえて検討する必要があります。
設置距離で表情が変わる「リング照明」
リング照明:ワークとの距離だけで別の顔になる
リング照明は、直径と設置距離によって画像の印象が大きく変わる照明です。


「高め→中間→15mm(近づける)」の順に見比べると、変化がはっきり分かります。照明を高い位置に置くと光が上からまっすぐ入るため同軸照明に近い見え方になります。位置を下げてワークに近づけると、光が真横からなめるように当たるようになり、背景が暗く沈み込む一方で、キズの線と打痕のフチだけが光を捉えて明るく浮かび上がります。
1本の照明の高さを変えるだけでこれだけの見え方の違いが生まれるため、現場での距離調整によって最適なポイントを探る余地がある照明です。一方で、画像が矩形であるのに対し照明形状が円形であること、拡散か同軸かの狙いが絞りにくいことから、外観検査での採用頻度は他の照明ほど高くない傾向があります。
影を演出して凹凸を際立たせる「ローアングル照明・角型ローアングル照明」
最後に紹介するのは、キズや打痕の凹凸に対して最も強いコントラストを描き出す、ローアングルのグループです。
ローアングルリング:エッジを際立たせる斜光
ローアングルリング照明は、ワークの真横に近い低角度から表面をなめるように光を当てる照明です。
平面部分に当たった光はすべて外側へ逃げてカメラに入らないため、背景は深い紺〜黒になります。そこにキズや打痕があると、そのエッジだけに横からの光が強く反射し、暗い背景の中でキズだけが白く際立って見えます。打痕も立体的な縁がくっきりと浮かび上がり、コントラストの高さでは他の照明よりも優れています。
ただし、照明をワーク表面から5〜10mm前後まで近づけて設置する必要があるため、自動検査機の搬送機構との干渉リスクを考慮した設計が求められます。
角型ローアングル:拡散とローアングルを両立する照明
拡散光とローアングルの両方の特性を持つ照明が、角型ローアングル照明です。
ワークに近い距離で設置したとき、拡散光とローアングルの2つの特性を同時に発揮します。画像では、背景の深い色味を保ちながらも、キズの光り方や打痕の陰影が通常のローアングルリングと比べて穏やかに表現されています。至近距離から拡散光を当てることで、キズの視認性を保ちながら、過度に強い影の発生を抑えられる点が特徴です。薄型の筐体で低角度の拡散を実現できるため、設置の自由度が確保しやすいという実務上の利点もあります。
まとめ:照明選定の3つの判断軸
同じ金属プレス板であっても、光の当て方だけで見え方は大きく変わります。照明選定は、明るさのスペックや価格だけで決まるものではなく、以下の3つの軸から検討することが重要です。
- 何を見たいか:素材の色味か、微細なキズか、打痕の凹凸か
- ワークの形状はどうか:平面か立体か、光沢があるかマットか
- 現場の環境とどう調和させるか:ワークとの設置距離、搬送ラインとの干渉リスク
この3つの軸が交差するところに、その現場にとっての適切な照明選定があります。照明ごとの特性を理解した上で、実際にワークを傾けながら最適な光の条件を探る検証プロセスが、安定した検査システムの構築につながります。
照明選定を含めた外観検査システムの設計について、具体的なご相談はアダコテックまでお気軽にお問い合わせください。

