学習画像をどう選ぶか|「正常蒸留」という新しいアプローチ

外観検査AIの導入では「良品画像をどう集めるか」に注目が集まりがちですが、精度を左右するもう一つの要素が見落とされやすい傾向にあります。それは、モデルをどの単位で分けるか、あるいは1つにまとめるかという設計判断です。同じ良品画像を使っていても、この切り分け方を誤ると、運用開始後に精度が安定しない、過検出が頻発するといった問題につながります。

本記事では、良品学習AIにおけるモデル設計の考え方と、学習枚数を抑えながら精度を維持するアダコテック独自の技術「正常蒸留」を紹介します。

良品学習AIと欠陥学習AIの違いのイメージ

良品学習AIと欠陥学習AIの違いのイメージ

モデルを分けるべきケース:生産ラインとカメラ・レンズ

良品と一口に言っても、内部にはさまざまな変化が含まれています。生産ロットによる特徴の変化、複数ラインごとの違い、切削品における工具寿命の影響、寸法公差内でのばらつきなど、要因は多岐にわたります。

生産ラインごとに製品特徴がばらつく場合は、トレーサビリティ(履歴管理)の仕組みを活用し、ライン単位でモデルを分けて構築する方が運用は安定しやすくなります。1つのモデルにライン間の差異まで含めてしまうと、正常の範囲が過度に広がり、本来検出すべき異常への感度が下がるためです。

同様に、カメラやレンズが異なる場合は、それぞれで学習モデルを分けて作成することが基本になります。レンズや照明には個体差(倍率や明るさの違い)があり、精密な検査ではモデルの転用が難しいケースが多いためです。

1つのモデル内で網羅すべき範囲

一方で、切削工具の寿命による外観変化、寸法公差内のばらつき、ロットごとの変動は、原則として1つの学習モデル内で網羅する必要があります。これらは「公差の範囲内で正常」として扱うべき変化であり、変化のたびにモデルを切り替える運用は現実的ではありません。

1つのモデルで学習する良品バラつきの範囲

1つのモデルで学習する良品バラつきの範囲

画像収集の段階では、この「モデルを分けるべき境界」と「1つのモデル内に含めるべき変化の幅」を意識して計画することが重要です。境界の引き方を誤ると、後工程でモデルの再設計が必要になり、手戻りが発生します。

なお、良品画像の収集・選定において「枚数を増やせば精度が上がるとは限らない」という点は別記事(外観検査AIの過学習とは|良品画像収集の落とし穴)で詳しく解説しています。本記事のモデル設計と合わせて確認いただくと、画像収集の全体像がつかみやすくなります。

やみくもな学習が招くリスク

学習範囲を適切に設計できたとしても、集めた画像をすべて学習させることが最善とは限りません。特定ロットの画像に偏って学習すると、ロット変更時に過検出が増加するといった問題が現場では起こります。

大量の画像を学習させた際の副作用

大量の画像を学習させた際の副作用

また、追加学習を重ねるほど推論時間が延びていくという副作用もあります。運用開始時と比べて処理が重くなっていく状態は、現場での使い勝手を損なう要因になります。

追加学習のリスク

追加学習のリスク

「正常蒸留」技術とは

こうした課題に対応するため、アダコテックは「正常蒸留」という独自技術を開発しています。情報を圧縮し、良品の重要な特徴だけを抽出する技術で、例えば1,000枚の画像で学習していた場合でも、より少ない枚数で同じ特徴を表現できる画像の組み合わせを自動的に選び出します。

良品特徴の認識の様子

良品特徴の認識の様子

学習枚数を減らしながら精度を維持できるため、モデルの軽量化と推論速度の両立につながります。

蒸留後の正常空間のイメージ

蒸留後の正常空間のイメージ

正常蒸留ツールは現在試験導入中です。ご興味をお持ちのお客様には個別にご紹介が可能ですので、お気軽にお問い合わせください。

モデル設計を最初に固めることの重要性

良品学習AIの精度は、画像の集め方だけでなく、モデルをどの単位で構築するかという設計判断に大きく左右されます。生産ライン・カメラ/レンズ単位での分割の要否を早い段階で見極め、1つのモデル内で網羅すべき変化の幅を明確にしておくことが、後戻りのない導入につながります。

モデル設計の考え方や正常蒸留技術の詳細について、外観検査AI導入に関するご相談は、アダコテックまでお気軽にお問い合わせください。